小説
「お前の思い悩んでいることは、きっと帝都中の人間を殺し尽くしたところでどうなるものでもないよ。ナイフを向ける先が間違っている」 ──オブライエン(『賭博師は祈らない(4)』より) 賭博師として小金を稼ぎながらその日暮らしをしていた主人公のラザルス…
「けれどまあ、真面目なら真面目なりに、不真面目ならば不真面目なりに、生きていけるでしょうし、生きていかなければならないでしょう?」 ──芝浦縁(『明治あやかし新聞 三 怠惰な記者の裏稼業』より) 明治を舞台に、あやかしを隠れ蓑にして事件を解決し…
こんなつらい話を、なぜ書くのか。その問いに明確な答えがないように、「僕」もまた、探していたすべての答えは得られなかったのではないか。そんな風に思います。ただ、それでも私は書きました。そしてまた、「僕」も……そんな風に、今は思えます。 ──紅玉い…
──私たち、まだ十六歳の子供なんだよ。無力で愚かに決まってんじゃん。 片柳は彼女の脳のことを知らない。だが、たぶん片柳なら、たとえ何の救いにならないことがわかっていても、最期の時までそばに居続けるのだろう。 ──内村透(『七月のテロメアが尽きる…
創風亭破楽は、前に俺に言った。 人は死ぬ瞬間に、幸せだったと思ってはダメだ。あぁ楽しかったと感じなければならない、って。 常識的に生きていても、得られるもんなんてたかが知れてるだろう。 命がけで熱くなれるものが見つかったなら、そいつの人生は楽…
どこで暮らそうが、どんな仕事をしようが、誰と一緒になろうが、どれだけ偏った思想を持とうが、全部個人の自由だ。法律やルールを守った生き方であれば、他人がとやかく言うことじゃないし、ひっちゃんのケースだって、本来なら俺がいちいち口を出すことじ…
その有無が、戦いに至るまでの過程で様々な蓄積の差を生み、戦闘のあらゆる場面、特に窮地においてほんの少しずつでも作用し、結果として勝敗にすら少なからぬ影響を与える。(中略)言ってしまえば、「心構え」の強固さにおいて、彼らに遅れを取ってはいな…
他人に正解を求めるから……自分で考えて動いていないから、いざというときそんな風にみっともなく取り乱すんだ。 ──宮地磐夫(『東京レイヴンズ (14)』より) 裏切り者の上司から部下への台詞ってところですかね、まとめると。 自分の意志で動くって難しい。…
だから、負けないで、と祈ります。勝たなくてもいい。ただ、負けないで。 ときには、折れることが強さだったりします。逃げることが勇気だったりも。そうやって、いつしかふと、苦境が遠くへ去っていることに気づける日が必ず来る。 ──角埜杞真(『トーキョ…
──いいか、覚えておきなさい。世の中は、すべて繋がっている。風が吹いたとき、どの桶屋が儲かるのか。それを見抜くのが金融マンの仕事だよ。 ──佐久間社長(『トーキョー下町ゴールドクラッシュ!』より) 「風が吹けば桶屋が儲かる」ってのは、まったく関係…
ウチの会社、私が入社したころも、決して景気がいいわけではありませんでしたが、今よりは幾分ゆとりがありました。(中略)それが今は、入社と同時に即戦力を求められてしまう。(中略)それって可哀相だと思いませんか? せっかくゆとりを持って育ってきた…
仕事もしているし、選挙にも行く。お酒も飲めるし、喫煙だって合法だ。それでも、昔思い描いていた姿よりも、今の自分はだいぶ幼いと感じてしまう。大人というよりは、子どもが必死に大人のフリをしているといった方が近い。 ──三春千紗(『チョコレート・コ…
私はこのこの唐揚げ大好きだし、こうやって同類と出会えた。どんなに店長自身が唐揚げを失敗と決めつけても、その事実は変わらない。だからさ、お前もそんな自分を卑下するなよ。 ──紗世(『ただ、それだけでよかったんです』より) メニューが寂しいからラ…
接点がはじめからあったわけではない。川にさらわれて偶然、重なる石のようなものだ。 それならばいつかまた、『接点』とやらが見えてくるのかもしれない。 そしてそういうものは、お互いが忘れた頃にふとした拍子にやってくるものだろう。 ──黒田雪路(『ク…
始まりを探すことは不可能に等しく、また、無意味なことだった。 なぜなら、間違いを正すことはもうできない。 人生にやり直しなど利かないのだ。 ──首藤祐貴(『クロクロクロック 結』より) まぁ、首藤祐貴よりはやり直しが利くと思うけどね。なんせこの人…
「愛してる」なんて私たち日本人はふだん絶対、言わないよね。こっ恥ずかしくて。かの夏目漱石は「I LOVE YOU」を「月がきれいですね」と訳したとか。なるほどな~。 ──なかもりあきお(『世界から猫が消えたなら』解説より) ※注意。若干本のネタバレあり。
僕は母さんにかける一本の電話よりも、目の前の着信履歴にかけ直すことで目いっぱいになっていた。本当に大切なことを後回しにして、目の前にあるさほど重要ではないことを優先して日々生きてきたのだ。 目の前のことに追われるほど、本当に大切なことをする…
恋には必ず終わりが来る。必ず終わるものと分かっていて、それでも人は恋をする。 それは生きることと同じなのかもしれない。必ず終わりが来る、そうと分かっていても人は生きる。恋がそうであるように、終わりがあるからこそ、生きることが輝いて見えるのだ…
間もなく死ぬという運命を、僕なりに受け止めていたはずだった。なのにいざ命を延ばしてもらえるかもしれないとなると、それがどんなにバカバカしい取引だとしてもすがってしまう。死ぬときは悪あがきせず、落ち着いて、安らかに。自分はそうありたいし、そ…
迷惑をかけ合えるのが、友人なんじゃないのかな。ぼくは少し、嬉しいと思ったよ、そんな風に頼ってくれるのが ──瀬ケ崎渉(『いでおろーぐ! (3)』より) 愚痴をまくし立てたことを詫びる主人公に対しての一言。 迷惑かけるのって勇気がいるよね。私、全然相…
もし幼稚ではない、現実的に思える理想があるとすれば、それは妥協という名の紛い物だ ──シン(『レトリカ・クロニクル 香油の盟約』より) 理想ってのは、得てして不確かで非現実的なものだ。 私にとって、一番大事なことは「面倒くさくない」こと。もう世…
オレは君に問いかけ続けただけだ。そして、君はそれに答え続けた。未来を切り開くのは問いじゃない、それに対する答えなんだ。独立できたのは、君が答えを出し、決断したからだ ──シン(『レトリカ・クロニクル 香油の盟約』より) 答えを出すって難しい。決…
ずっと親の庇護のもとでいきているわけじゃない。彼らは巣立たなければいけないんだよ。彼らにも己の意志で決めるときが来ているんじゃないのかい? ──(『レトリカ・クロニクル 香油の盟約』より) 人の親になったことはないので、親心はようわからんけれど…
シン、おまえの言葉は人の心を打った。俺もだ。人は己の精神のために戦うべきだと思い知らされた。恐らくそれは部族の人々も同じだろう。その気持ちは間違っているのか? それがおまえの理想なんじゃないのか ──エルヴィン(『レトリカ・クロニクル 香油の盟…
「有り得ない仮定をするんじゃないよ」カズラは酒の入った水筒に口を付ける。「『最高』ってのはね、自分に与えられた可能性を最大限に活かして得た結果のことなんだよ。無い物ねだりをすることじゃない」 ──カズラ(『レトリカ・クロニクル 香油の盟約』よ…
人の心にある愛の謎はけっして解くことはできないけれど、それでも部分的にはわかることもあります。男も女も、老いも若きも、善人も悪人も、つまり人間全部に共通する特徴は、孤独ということ。そして猫とちがって、人は一人でそれに耐えられるだけの強さが…
猫が家を乗っ取ってくれていっしょに暮らしてくれるなんて、人間はなんて運がいいんでしょう。猫がどんなに人間のためになっているか、猫ならみんな知っています。でもそうだからといって、猫がマナーを守らなくてよいということにはなりません。このことは…
ケースは猫を守るためのものと納得して、安全に旅行できることを喜びましょう。あなたが外に出られないということは、中に入ってくるものもないということ。つまりケースの中の猫は、穴にかくれたねずみと同じくらい安全です。(中略)猫ケースだろうと籐の…
昔、私が知っていたあるひとりものの男性は、どこにいくにも猫といっしょでした。(中略)どこにでも猫を連れてあるいて、まるで猫と結婚しているようでした。じつはこの猫は、この暮らしを気にいっていたんです。とっても不自然な暮らしで、私だったら一日…
どうやっても、悔いは残ると思う。大切なことであれば。大事なことであれば。譲れないものであれば……それが思い通りにならなければ、必ず悔いは残るのだ。 重要なのはそれらの感情とどう向き合っていくか。どう折り合いをつけていくか。 ──梓川咲太(『青春…