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いちまんのいいことば

すてきなことばあつめました

そのときに僕がつくづく思ったのは「世の中にはきっと翻訳の神様がいるんだ」ということだった。

志賀直哉に「小僧の神様」という作品があるが、それと同じような意味合いでの個人的な神様だ。僕は自分の好きな作品を選び、僕なりに心を込めて、ひとつひとつ大事に翻訳してきた。まだまだ不足はあるにせよ、少しずつではあるが翻訳の腕もあがっていると思う。翻訳の神様は空の上でそれをじっとご覧になっていて、「村上もなかなかよくがんばって翻訳をしておる。このへんで少し褒美をやらなくてはな」と思われたのかもしれない。

 

──村上春樹(『村上春樹 雑文集』「翻訳の神様」より)

 

日本人の宗教観って独特で、私も神様は信じてるんだけど、基本的に神頼みしてもお願いを聞いてはくれない。けど、天の上から下界を見守っていて、たまにご褒美をくれる。そんなイメージで信じている。これもまた、村上春樹にとっての翻訳の神様みたいに、個人的な神様と言えるのかもしれない。

神様なんているわけないって言う人もいるけれど、空の上からこちらの頑張りを見ていて、ちゃーんとご褒美をくれる人がいるって思うのは、ある種の安心感だよね。実社会で努力がすべて報わることはないし、ムダになる頑張りだっていっぱいあるんだから。

それでも、自分の個人的な神様ぐらいは、その努力を見ていて、あるときフッとご褒美を与えてくれる。それぐらいの感覚で過ごすほうが何にでも挑戦しやすいんじゃなかろうか。

 

村上春樹 雑文集 (新潮文庫)

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