いちまんのいいことば

すてきなことばあつめました

その些細な、とても無力で愚かな行いを、彼女は否定しない。

 ──私たち、まだ十六歳の子供なんだよ。無力で愚かに決まってんじゃん。
 片柳は彼女の脳のことを知らない。だが、たぶん片柳なら、たとえ何の救いにならないことがわかっていても、最期の時までそばに居続けるのだろう。

 

──内村透(『七月のテロメアが尽きるまで』より)

 

進行性の記憶障害をもつヒロインと、人付き合いを避けてきた主人公の青春劇より。毎日死に近づいていく、忘れていくヒロインと主人公の日常を読み進めていくと、ただ傍にいるそれだけのことに意味はあるのか。そんな命題を突きつけられたような気がした。

幸か不幸か、これまでただ死ぬのを待つしかない容態の人と関わり合う機会がなかったもので、そういう人を目の当たりにしたときにどうすればよいか答えがない。

自分のことでいうと、命を引き延ばすためだけの治療はしてほしくない、とはっきり宣言できるのだが。では、ただ生きていてくれるだけでいいから、自分のために生きてくれ。と大切な人に言われたらどうするのか。想像の中ですら、大いに悩んでしまう。

引用では、「十六歳なんて無知で愚か」とあるけれど、三十過ぎても無力で愚かなのは変わらない。大人になったって、すべてを手中に収めることができるわけじゃない。どれだけ歳を重ねても、全知全能にはなれやしない。

何が正しいのかなんてわからない。その時々によってきっと変わるだろう。それでも、ただ一つだけわかることは、より自分が後悔しない道を選ぶしかないってことだ。

 

七月のテロメアが尽きるまで (メディアワークス文庫)

七月のテロメアが尽きるまで (メディアワークス文庫)